最下位の日から、何があったか
先に、日付だけ並べておきます。
- ICC KYOTO 2026 カタパルト公開リハーサル。Canva製のスライドで登壇。グループA 7位、採点1点。
- スライドを「Canva」でも「PowerPoint」でもなく、文字のリストとそれを画面にする仕組みで作ることに決める。同じ日の夜、構成をゼロベースで組み直す(83枚から64枚へ)。
- 通し練習を録音して、そのままClaudeに渡す。「文字が小さい」「AIという言葉を連呼している」「▲2.2%と言われても実額が分からない」を反映。
- 全編の視点を「職員」に統一した第3稿が本番版になる。
- 大阪の現場で撮影。職員インタビュー4本を文字に起こし、証言5本を映像スライドにする。
- 音が出ないバグを修正。ブラウザの実機で「開幕は無音、各スライドで音量が上がり、離脱で戻る」まで確認。
- 読み上げ練習ページ(タイマー、経過時間、暗記モード)を追加。
- AI読み上げ音声はこの日で16版目。
- 当日。会場でType-Cにつなぐと動画が固まる。音声の出し方を変えて回復。カタパルト・グランプリ、優勝。
道具はAIですが、決めたのは全部自分です。Claudeがやったのは、その決定を数時間で形にして、通して、直すことでした。以下、何をどう頼んだかを、順に書きます。
やり方 1指摘は録音、画面は録画。どちらも、そのまま渡す
リハーサルや通し練習で人からもらう指摘は、メモを取りません。その場の録音を、そのままClaudeに渡します。Claudeが文字に起こし、指摘を一覧にして、「どのスライドの、何を、どう直すか」まで落とし込みます。私はそれを見て、やる・やらないを決めるだけです。
8月10日の通し練習では、こういう指摘が出て、こう直しました。
| 録音にあった指摘 | 直したこと |
|---|---|
| 文字が小さい | 本文の文字をひと回り大きく(はみ出しや折り返しは機械的に全枚検査して0) |
| 「AI」という言葉を連呼している | 台本から「AI」という言葉を消した |
| ▲2.2%と言われても実額が分からない | 「年▲2,000万円」を並べて書いた |
| 「浮いている」「1分半長い」 | 思い入れのあった要素(凧、昔の話など)を外し、前半の繰り返しを圧縮 |
人の指摘は、聞いているその場では「なるほど」で終わって、翌日には半分忘れています。録音ごと渡してしまえば、忘れません。しかも、直すところまで一気に進みます。
画面も、録画してそのまま渡す
自分で気づいた不具合も同じやり方です。デッキを通しで動かしているところを自分で画面録画して、その動画ファイルをそのままClaudeに渡します。「ここで音が出ない」「この動きが遅い」「文字が切れている」を言葉で説明するより、動画のほうが正確です。Claudeは動画から静止画を抜き出して、どのスライドの何秒目で何が起きているかを見て、直します。
言葉にしにくいものほど、録って渡すのが早い。録音も録画も、こちらがやるのは「録る」ことだけです。
やり方 2スライドは描かない。「文字のリスト」にして、AIに描かせる
Canvaでは、スライドを1枚ずつ「描き」ます。今回はやめました。スライド1枚を、文字と設定のメモにして、そのメモの束(deck_v3.json というファイル)を読んで画面にする仕組み(deck.html)を、Claudeに作ってもらいました。
これは本番デッキにある、実際の1枚です。プログラムに見えますが、読んでみると「何を、どう見せるか」のメモです。
{
"id": "07a",
"ch": "② 職員が報われない",
"lo": "photo",
"img": "assets/real/w_C8552_kaki.jpg",
"role": "職員",
"punch": 1, "hold": 5,
"text": "「どうせ、\n変わらない」",
"say": "よく聞く言葉があります。(間)「どうせ、変わらない」。",
"key": "v2の『どうせ』を職員視点だけで復活。9/1: ストック風写真→実写(頭を掻く職員)に差し替え"
}
deck_v3.json より(スライド07a・一部省略)
| lo | 見せ方の種類。photo は「写真の上に文字」 |
|---|---|
| img | 背景の写真 |
| text | 画面に出す文字 |
| punch | 何行目を「判子」のように据わらせるか。ここでは2行目の「変わらない」 |
| say | その1枚で喋る台本。(間)のようなト書きも書ける |
| key | なぜこの1枚がこうなっているか、の備考。差し替えの経緯もここに残る |
この形にすると、直すのが速い。文言の修正は1行、順番の入れ替えはメモの並べ替え、1枚消すのはメモを1つ消すだけです。頼み方も簡単です。
決めごとを一つ。PowerPointには変換しない。8月の頭までは「画像を書き出してPowerPointにする」方式と、この方式が並走していて、片方を直しても片方に反映されず、緑の色すら食い違っていました。一本化してからは、正はメモの束、投影はdeck.html、それだけです。
やり方 3動きは、意味のあるものだけ
この方式の良いところは「動く」ことですが、動けばいいわけではありません。動きは5種類だけ用意して、それぞれに意味を持たせました。deck.htmlの中に、そのまま日本語でメモが書いてあります。
/* ---------- 意味に紐づく動き ----------
punch: その行だけ判子のように大きく入って据わる(「どうせ」「汁だく!」「▲2.2%」)
flip : 行が実際に裏返って現れる(「全部ひっくり返しに来ました」)
track: 字間が締まりながら決まる。主題文用(「現場の人は、最初から優秀だった」等)
thread: 文の下を細い糸が左から右へ走る(凧の次、「糸の先には必ず一人」)
hand : 手書きの言葉が、書かれていくように現れる */
web/deck.html より
さきほどのメモ(07a)を、この仕組みで描くとこうなります。本番は職員の実写を背景に敷いていますが、ここでは緑ベタで。
"punch": 1 の1行で指定数字は止めません。数字はその場で増えていって、静止画では出せない緊張感を作ります。
やり方 4本物しか出さない
これは私の強い好みで、Claudeに何度も言いました。システムの画面は、本物のスクリーンショットか、本物のプログラムそのもの。ClaudeがHTMLで「それらしく」再現した画面を作ってきたときは、こう返して、不採用にしました。
写真も同じです。8月24日と25日、大阪の現場で撮影しました。職員インタビュー4本の音声をClaudeが文字に起こし、「ここからここまでを使う」をタイムスタンプで切ります。声の大きさを全クリップで揃え、ノイズを取る。そうしてできた証言5本が、本人の映像と肉声と字幕で、スライドに入っています。証言が流れている間、私は喋りません。
数字も、作りません。職員に聞いた数字は、2026年7月に全職員に取ったアンケート(回答225人)の実データです。元の原稿には「報酬が上がった」という一文がありましたが、調査では裏づけられなかったので、置き換えました。
行政の文書も、スクリーンショットではなく、文言をそのまま組みます。骨太の方針の表紙をHTMLで組んで、そこに朱印が据わる。写真より鮮明に映ります。
やり方 5練習の道具も、AIに作らせる
7分間、代わりに喋ってくれる人はいません。だから練習の道具を作りました。
台本はスライドの中にある
台本は、さきほどのメモの say 欄が正本です。発表者用の画面(プレゼンタービュー)にその1枚の台本が全文出て、そこで直接書き換えると、メモの束に書き戻されます。台本だけ別ファイルで古くなる、ということが起きません。
読み上げ練習ページ
8月30日に、投影用とは別に練習用のページを作りました。頼んだことは一つだけです。
台本の一覧と、各ページに到達しているべき経過時間、それとタイマー。経過時間は「文字数÷1分あたり390字+映像の尺」で自動的に見積もり、実際に計った時刻を入れると、その間を文字数で按分し直します。9月1日には暗記モードを足しました。全文、ヒント(各文の頭3文字だけ)、隠す(クリックで一時表示)の3段階です。出先でも練習できるように、同じものをClaudeのアーティファクト(共有ページ)としても発行しました。
AI読み上げ音声
台本を読み上げた音声も作りました。移動中に聞くためのものです。作ってみて分かったことがいくつかあります。「EBITDA」をそのまま読ませると発音が崩れるので、英字は読み仮名の表(EBITDA→イービットダー、Qaito→カイト)を通す。できた音声は別のAIで文字に戻して、台本と照合する。自然な速さは1分あたり約287字で、早口の指示はほとんど効かない。7分に収めるなら台本は約2,000字が上限。頼み方は、こんな調子です。
この音声は台本を直すたびに作り直して、9月1日で16版目です。移動中も、寝る前も、何度も聞きました。
一部を切ってあります。証言の部分は本人の声がそのまま入っています。
やり方 6本番は、電波も機材も信じない
投影する場所の電波は信用しない、が前提です。
- 書体も写真も動画も、全部手元のファイルから読みます。全枚でスライド中の外部通信0件を実測しました。
- デスクトップの1ファイルをダブルクリックすると、専用の画面が全画面で開きます。素材50件がちゃんと読めるかを事前に検査する機能もあります。
- ファイル一式はGitHub(ファイルの保管庫)に置いてあり、別のパソコンでも同じダブルクリックで復旧します。
それでも、当日は焦りました。会場でType-Cケーブルにつなぐと、動画が固まることがある。手元では何十回も通っていたものが、その場では詰まる。音声の出し方を、ケーブル経由からイヤホンジャック出力に変えたら改善しました。念のため、動画7本を軽くした複製版も用意していました。準備をどれだけしても、会場の機材は当日まで分からない。逃げ道を一つ持っておくのは、AIがあってもなくても変わりません。
この記事も、同じやり方で
最後に、この記事自体の作り方を。優勝した日の午後、Claudeに「記事をつくりたい」と頼みました。そこから先を、デッキと同じ仕組みで1枚にすると、こうなります。
この記事が頼んだその日にできた理由は、一つです。材料が全部、残っていたからです。デッキ一式はGitHubに、37日分のやり取りと決めごとはClaudeの記録に、写真も動画も読み上げ音声も手元のファイルに、記事の型と公開の手順はeeful storiesのリポジトリに。Claudeはそれらを自分で探しに行って、年表を組み、演出を抜き出し、公開リハの順位と点数をICCの記事で確かめ、画面を撮り、音声を切って、下書きを見せてきました。
私がやったのは、読んで、短く返すことだけです。「これが見にくい」「ここは省いていい」「全体的にもっと素人でもわかるようにしてほしい」「明朝体を禁止にして、より読みやすいデザインに」「これは不要」。
やり方は、スライドのときと何も変わりません。作ったものを全部残しておいて、頼む、見る、短く返す。それだけです。