「紹介待ち」の時代は終わった〜介護業界を動かしはじめた、3つの経済合理性〜

こんにちは。EEFULホールディングス採用担当の吉川です。
これまでの記事では、介護という仕事の待遇や、現場に流れている空気についてお伝えしてきました。
今回は少し角度を変えて、「業界の構造がいま、どう変わろうとしているのか」という話をしたいと思います。
介護は、長らく「制度で守られた、変化の遅い業界」だと言われてきました。でもここ数年、その前提が音を立てて崩れ始めています。
動かしているのは、理念でも号令でもなく、経済合理性です。
大きく3つの潮流があります。
潮流① ケアマネジャー制度の危機が、「介護マーケティング」を呼び込んだ

まず、業界の入口が変わりつつあります。
ケアマネジャー(介護支援専門員)は、介護保険の中立性と競争原理を担保する最後の砦です。本来なら、利用者のニーズと状態をていねいに評価し、複数の事業所を比較したうえで最適なケアプランを提案する——そういう役割を担っています。
ところが、その制度的な前提がいま大きく揺らいでいます。
常勤換算での実働ケアマネは約14万人。平均年齢は53歳を超え、資格試験の合格者はピーク時の半分以下にまで落ち込みました。要介護認定を受ける人は増え続けているのに、新しいケアマネがほとんど育っていない。制度そのものの継続が危ぶまれる水準です。
現場も慢性的な過負荷です。帳票入力、LIFEへのデータ提出、家族対応、オンライン担当者会議。厚生労働省が示す「40件まで標準」という基準は現実とかけ離れていて、25〜30件が実質的な上限というのが業界の常識になっています。しかも基本報酬は月1万数千円。件数を減らして質を高めようとすれば、事業所の経営は赤字に傾きます。
その結果、何が起きたか。
同じ法人グループや顔なじみの事業所を優先的に紹介し、書類の手間と連絡コストを抑える——そういう慣行が温存されてきました。利用者にとっての「選択肢の比較」は形骸化し、介護保険が掲げたはずの競争原理は働いていません。
制度の維持が難しくなれば、利用者側に情報と選択を委ねる流れは避けられません。
そこで浮上しているのが、ケアマネを介さずに本人や家族が自らプランを届け出るセルフケアプランです。これまでは「手間がかかる」と敬遠されてきましたが、プラン作成アプリやオンライン相談窓口が登場し、実際に使う家族は少しずつ増えています。
実際、魅力的な事業所には、ケアマネジャーより先に家族から直接問い合わせが入るようになってきました。
この局面で事業所に突きつけられる問いは、ひとつです。
「誰に、どんな価値を、どう伝えるのか」
同じようなサービスを並べて待っているだけでは、稼働率は維持できません。リハビリの改善率や睡眠スコアをダッシュボードで可視化して、家族がスマホで確認できるようにする。認知症専門デイ、英語対応の訪問介護、パワーリハ特化型デイなど、ターゲットを絞って価格に「理由」を持たせる。SNSやウェブ広告、地域イベントで、ケアマネだけでなく本人・家族に直接リーチする。
介護とはもっとも縁遠いと思われていた「マーケティング発想」が、いまや不可避の条件になりました。
紹介を待つ時代は終わり、データで成果を示し、顧客に直接語りかけるプレーヤーだけが生き残る。その必然は、制度依存の危機から生まれています。
潮流② バックオフィス統合とM&A——SaaSが生む合理性

2つ目は、経営の裏側で起きている変化です。
介護事業所の営業利益率が3%台にとどまる最大の理由は、請求・労務・購買といった間接業務に、時間と人件費を奪われる構造にあります。
そこで注目されているのが、これらの業務をクラウドの「月額サービス」に置き換える方法です。
たとえば請求業務。レセプト作成から国保連への請求ファイル生成、入金消込までをひとつのクラウド画面で完結できれば、事務スタッフ1人あたり月20〜30時間のルーチン作業が削減できるという報告があります。
労務管理を同じ基盤に載せれば、勤怠データと給与計算が自動で連動し、締め作業のダブルチェックも不要になります。
従業員50人・ベッド100床規模の施設でこうした仕組みを導入すると、人件費と購買費を合わせて年間2〜3ポイントの利益改善が見込めるという試算もあります。営業利益率が3%前後の業界にあって、この幅は死活的なインパクトです。
さらに、複数拠点を持つ法人が基幹データを一元管理すれば、経理・労務・購買の重複人員を減らせるだけでなく、本部からリアルタイムでKPIを見られるようになります。
この「横串オペレーション」が、いま投資家の関心を集めています。買収後に短期間でシナジーを出せるからです。
典型的な手順はこうです。買収した複数施設を共通のクラウド請求・勤怠・購買システムへ統合する。次に購買ロットを一本化して仕入れ価格を引き下げ、ガバナンスとブランドを統一する。こうしてEBITDA倍率を高め、将来の売却または上場を目指す——いわゆるプラットフォーム型介護グループが増えています。
もちろん、効率化が進むことで地域密着型の小規模事業所が淘汰され、サービスの選択肢が狭まる懸念も残ります。
それでも、人手不足が常態化した現在、SaaSを軸にした共通基盤と規模経営は避けて通れません。
バックオフィスをクラウドに載せ、浮いたリソースと資本を、現場のサービス改善や職員の処遇に回す。 この好循環を描ける法人こそが、薄利の市場で持続的に成長できる。そういう時代になりつつあります。
潮流③ 自費サービスの拡大——"動詞の介護"から"高齢者産業"へ

3つ目は、介護そのものの定義が広がっているという話です。
介護は、排泄や入浴を手伝う「動詞の介護」から、高齢者の暮らし全体をデザインする高齢者産業へと姿を変えつつあります。
経済産業省の推計では、公的保険でまかなえない保険外サービス市場は、2020年の1.9兆円から2030年には3兆円規模に拡大すると見込まれています。
具体的にどんなサービスか。
たとえば旅行・外出支援ツアー。介護タクシーと看護師の同行をセットにして、温泉やスポーツ観戦に出かけるプランは人気があります。転倒リスクや服薬管理を専門職が担うので、家族は同伴不要。高齢者は「もう一度行きたかった場所」へ安心して足を運び、"人生のやり残し"を解消できます。
相続や資産管理をまとめて相談できるサービスも増えました。行政書士やファイナンシャルプランナーが、遺言作成から後見制度、空き家対策までワンストップで支援し、家族間のトラブルを未然に防ぐ。
シニア就労や地域ボランティアを紹介して社会参加を後押しする仕組みも登場しています。就労や奉仕活動はフレイル予防と自己肯定感の向上につながり、結果として医療・介護費の抑制にも効いてきます。
こうした多様なニーズに応えるため、資産水準でターゲットを分ける動きも進んでいます。富裕層向けのホテル型レジデンスやプライベート看護、ミドル層向けのパワーリハビリ+栄養サブスク+相続相談のパッケージ、低年金層向けの見守りIoTと生活支援の組み合わせ——価格帯ごとに、まったく違うモデルが立ち上がっています。
制度面でも追い風があります。東京都豊島区が検証した「選択的介護」(混合介護)モデルでは、同一事業所内で保険サービスと自費メニューを一括提供でき、利用者の自由度が大きく高まりました。国もガイドライン整備と区分記載の緩和を検討しており、保険と自費を組み合わせたハイブリッド経営が、次の報酬改定の焦点になる見込みです。
自費で価値を尖らせ、公定価格で基盤を支える。 これが2040年に向けた介護ビジネスの生存戦略になります。
この3つの潮流は、EEFULの事業構成そのものです

さて、ここまで業界の話をしてきました。
お気づきかもしれませんが、この3つの潮流は、私たちEEFULホールディングスがいま取り組んでいることと、ほぼそのまま重なります。
潮流②に対して → 事業承継プラットフォーム(succession.eeful-hd.com)
後継者不足に悩む介護事業所の経営承継を支援しています。単独では抱えきれなかった採用コスト・事務負担・資金繰りを共通基盤に載せる。まさに、バックオフィス統合とM&Aによる規模メリットの実装です。
潮流②に対して → SaaS・BPO領域
請求・労務・購買といった間接業務を、テクノロジーとオペレーションの力で引き受けます。自分たちの事業所で使って磨いた仕組みを、外販できるプロダクトへ育てていく構想です。
潮流①③に対して → 介護事業の運営そのもの
大阪・堺エリアで20施設以上を運営し、訪問看護・訪問介護・通所介護・障害福祉など、地域の暮らしを支えています。2026年9月には東京・港区芝浦にも新拠点を開設予定です。
ここが重要なのですが、私たちは現場を持っています。
だから、①の「誰にどんな価値をどう伝えるか」も、③の「自費サービスをどう設計するか」も、机上の議論ではなく自分たちの事業所で試せます。効いた仕組みだけを、プラットフォームとして横に広げていける。
現場を持つプラットフォーマー。 これがEEFULのポジションです。
「報われる介護」を、構造からつくる

3%の利益率。書類に追われる現場。紹介を待つしかない事業所。
これらはすべて、個人の努力不足ではなく、構造の問題です。
構造の問題は、構造からしか変えられません。だから私たちは、現場のケアと同じくらい真剣に、経営統合とテクノロジーに取り組んでいます。
介護を「報われない仕事」から「報われる仕事」へ。そのために必要なのは、精神論ではなく、経済合理性に乗った仕組みだと考えています。
一緒にこの仕組みをつくる仲間を探しています。
介護事業所のM&A・PMI(買収後の統合)を牽引したい方
AI・ソフトウェア開発で、介護業界の情報基盤をゼロからつくりたい方
SaaS・BPOで、業界の生産性そのものを変えたい方
採用広報・SNS・コンテンツで、業界のイメージを変えたい方
「変化の遅い業界」だと思われている場所に、いちばん大きな変化の余地があります。
ちょっとでも気になったら、ぜひ気軽に話を聞きに来てください!
📖 今回お伝えした業界構造の分析については、代表・森山穂貴の著書『未来をつくる介護 ── 高齢化時代の新しいライフスタイル開発』(クロスメディア・パブリッシング)でさらに詳しく書かれています。よろしければ、あわせてご覧ください。

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